土手や空き地、会社や大学構内の一角…、雑草生い茂る空き地を見ると「ここに草食動物がいたらなぁ…」と思いませんか?でも、動物は臭いがキツそう、吠えたり噛みついてきたらどうしよう…と、家畜による除草はなんとなく大変そうであることから非現実的と思ってしまいがちです。
しかし、耕作放棄地にヤギを放つことによって除草をする取り組みは実際に行われているのです!「ヤギ除草」の可能性は、20年以上前から大学や民間企業によって大真面目に研究され、今や立派なビジネスとして成立しております。
今回は、そんなヤギ除草についてを話題に取り上げます。除草用ヤギのレンタル情報もありますよ!
なぜヤギが選ばれたのか
除草に適した動物としてなぜヤギが選ばれたのでしょうか。まず、大前提として「家畜」である必要がありますね。長い歴史を経て家畜化され人が管理できる草食動物といえば、ヤギの他に牛、羊、馬、鹿、ラクダそしてうさぎがいます。(バッタなんかも「草を食べ尽くす能力」は高いですが、家畜以外の生物は管理が大変です。隣の畑に飛んでいったら大惨事です)。
牛の方が体も大きく、草をいっぱい食べてくれそうなイメージもあります。では、数いる草食の家畜の中でなぜヤギが除草用に選ばれたのか、ヤギの性質から見ていきましょう。
他の動物と比べて草を選り好みしない
大人のヤギは、他の草食の家畜に比べて、草をより好みせずに食べるという特徴があります(仔ヤギには選り好みがあるようです)。固そうな葛の葉などもバリバリ食べてくれるとは、頼もしいですね!
急傾斜地もスイスイ移動できる
ヤギは、崖の上などの急傾斜地を難なく登り降りする高い身体能力を持っています。牛などの身体の大きな動物では、歩行が困難であったり、体重で法面を崩壊させてしまうような斜面でも、ヤギなら除草OKです。
上の画像は、除草とは関係ありませんが、ヤギの身体能力がわかる動画です。崖や木の上までスイスイ登っています。(出展:ナショナルジオグラフィック TV)
小柄で扱いやすい
同じく草食の家畜である牛の体重が500kgを超えるのに対して、ヤギの体重はは20~100kgと小柄で扱いやすいことも利点です。(ヤギも本気を出せばかなり力がありますが…)500kgを超える牛や馬に比べると、扱いやすい動物といえるでしょう。
この章の参考文献
除草したい土地が、耕作放棄地なのか林地内なのか…など、目的に合わせてご参考にしてください。
吉村真司・松岡淳(2012)耕作放棄地対策としてのヤギ放牧のコストと普及可能性 愛媛大学農学部紀要 57:55-64
卯城 光・加藤元海(2012). 耕作放棄地における生後一年未満のヤギの放牧と除草効果 黒潮圏科学(Kuroshio Science),5−2,147−15
福田栄紀(2001)ヤギやうしが試飲新伐採跡の植生変化に及ぼす影響-森林地帯に芝双眼が成立するしくみ- Grassland Science 47(4): 436-442
森田昌孝他(2013)ヤギにおける林地内低木樹葉の嗜好性 山形大学紀要(農学)第16巻 第4号 別冊
ヤギ除草の効率とコスト
気になるヤギの除草能力はどの程度でしょうか。ヤギ除草の効率やコストは研究機関や自治体によって調べられておりますが、浜松市が公式サイトで公開している検証データが簡潔でわかりやすいため、こちらを参考にさせていただきます。
浜松市が公表しているの実証実験の結果は、市民農園において空き区画となった場所を対象としてヤギ除草を実施した際のデータです。
除草スピード
ヤギ:10平方メートル/日(平坦地、急傾斜地問わず)
人:草刈機(平坦地)100平方メートル/時、(急傾斜地)20平方メートル/時
柵延長40m(100平方メートル)あたり 資材費用
・繋牧10,000円
・放牧(電気柵)26,800円
・放牧(ワイヤーメッシュ柵)41,480円
ヤギレンタル費用
試算面積を1か月以内に除草可能な頭数と日数を設定。一日当たりのレンタル費用は350円と設定。人による除草費用(100平方メートルあたり)
浜松市ホームページ『ヤギ放牧による除草実験いついて(結果報告)』2018年
平坦地:7,500円、急傾斜地:40,000円と設定。
人が草刈機で刈った方が早い?
データが示す通り、平地の除草では、人が機械を用いて除草した方が圧倒的に効率が良いです。しかし、人の手で行う除草は、土地の傾斜が急になるにつれてコストと危険が伴います。
一方、ヤギは(前章の「なぜヤギが選ばれたのか」でご説明した通り)、急傾斜地を登り降りすることに長けているため、傾斜地に除草を平地並みのコストで行うことができます。
浜松市では、人が平坦地および急傾斜地の除草を行なった場合のコストと、ヤギ除草によって平坦地および急傾斜地の除草を行なった場合のコストを比較し、試算結果グラフにまとめています。こちらも公式サイトより閲覧可能です。
ヤギ除草のメリット・デメリット
ではここで、ヤギ除草のメリット・デメリットを見ていきます。ヤギ除草に適したエリア・適さないエリアがあると思いますので、ヤギを用いた除草をお考えの方は、ご参考にしてください。
ヤギ除草のメリット
一般的に言われるヤギ除草のメリットとして、除草機械を使わないためエコである、刈った草の処理が不要である、急傾斜地を安全かつ低コストで除草できるの3点が挙げられます。
加えて、実際にヤギ除草を行なった自治体によると、ヤギが放たれているスペースが近隣住民の憩いの場となり、人々に対して癒し効果を与えることや、(※)獣害の抑制効果といったプラス面が報告されています。
※獣害防止効果:山と畑の間にある草むらや耕作放棄地は野生動物の隠れ場所になります。このため、山と畑が草むらで繋がることは、野生動物によって畑を荒らされる原因になります。畑の周囲の草を除去することで、野生動物による獣害を低減・防止することにつながります。
ヤギ除草のデメリット
ヤギ除草を行なった団体の中には、鳴き声や臭いによるクレームで打ち切りになった例もあるようです。しかし、実際にヤギ除草を行なった感想を読むと、「思ったより臭わなかった。鳴き声も気にならなかった。」といったものが多数でした。
UR都市機構では、ヤギ除草の実証実験を行なった結果をウェブサイトで公開しています。これによると、近隣住民へのアンケート調査の結果、住民の8割以上が「ヤギの鳴き声が気にならなかった・あまり気にならなかった」「ヤギの臭いが気にならなかった・あまり気にならなかった」と回答していることがわかります。
参考:環境に配慮した新たな用地管理手法(ヤギ除草) UR都市機構
ヤギ除草における注意点
ヤギ除草を行う上で気をつけたい点として、ヤギの脱柵や怪我(ヤギがロープに絡まる等)、熱中症、毒草による中毒、寄生虫による感染症などがあります。準備・管理が不十分であるとヤギが体調を崩して、医療費など新たなコストが発生します。
ヤギ除草に向いている土地・不向きな土地
上記メリット・デメリットを踏まえ、ヤギ除草を取り入れるのに向いているエリアと不向きなエリアについて考察してみました。
ヤギ除草に向くエリア
ヤギの臭いや鳴き声について、近隣の全ての住民が受け入れられるというわけではありいません(8割が気にならなくとも、2割の住人には我慢させることになります)。ですから、やはり、ヤギ除草に向いている土地は、民家から少し離れた耕作放棄地や土手などが向いているといえます。
除草スピードは人が機械で行うよりは遅いので、「除草したいけれど手が足りない…」など急を要さないため後回しになっている場所や耕作放棄地などに導入するとよいかもしれません。
ヤギ除草に不向きなエリア
一方、観賞用の花などが植えてある公園、作物のある畑の除草などには向きません。ヤギは、草を選り好みしないため、花や生垣なども見境なく食べてしまうからです。ヤギ除草は、合鴨農法のようにはいかないようですね…(田んぼに合鴨を放っておくと、鴨は稲の間をぬって雑草を食べてくれます)。
ヤギ除草用ヤギのレンタル
ヤギ除草を実際に行なってみたくても、ヤギを飼育するとなると話は別ですよね。小屋や医療費、冬場の飼料など諸々のコストに加え、管理・世話の責任が生じます。…というわけで、ここでは、ヤギのレンタルサービス業者の一部をご紹介します。
各企業のウェブサイトに詳しい説明が載っていますので、対象地域や費用、事前準備等についてよくご確認ください。(※なお、ご紹介する会社は当サイトとは一切関係無関係の民間業者です。お問い合わせ、申し込みはご自身の責任で行なってください。)
ヤギ除草を実施している自治体
ヤギ除草を実施している自治体のうち、岐阜県美濃加茂市は、ヤギ除草を始めて2020年現在9年目になるそうです。美濃加茂市は、ヤギ除草をより効果的に行うべく産官学が連携して積極的に調査・研究を行なっており、ヤギ関連の教育イベントや学術発表を行っています。
既にご紹介ましたが、静岡県浜松市でもヤギ除草を実施し、その結果をウェブサイトで公開しています。
家畜の盗難には要注意!
ここ最近のニュースで、家畜の盗難が相次いているというニュースをよく耳にします。2020年9月現在、合計600頭以上の仔牛・子豚が盗まれています。除草用のヤギの盗難も例外ではありません。ヤギ除草を検討する場合は、夜間の見回りを強化するなど、対策をする必要がありそうです。
『豚や牛などの盗難相次ぐ 組織的グループが売る目的で犯行か』NHKニュース(2020年8月)
『ベトナム人窃盗団に食べられた町の象徴・除草ヤギ』東スポWeb(2014年12月)
ヤギ除草が研究できる大学
ここでは、ヤギやヤギ除草の関連した学術研究ができる大学や研究機関をご紹介します。家畜を有効に利用して人や地域に役立てる研究に興味がある農学部生、または農学部を志望する受験生のみなさんのお役に立てれば幸いです。
☆岐阜大大学応用生物科学部は、美濃加茂市と協力して、効果的なヤギ除草の方法を調査・研究しています。(岐阜大大学応用生物科学部へのリンク)
☆高知大学からも下記のような論文が出ており、実際にヤギを使ったフィールドワーク研究ができると考えられます。
柿 真理ら(2018) 耕作放棄地におけるヤギの除草面積の推定 黒潮圏科学,11-2, 117-127,
☆山形大学農学部でもヤギの飼育に関しての記事がありました。
(参考URL:https://www.tr.yamagata-u.ac.jp/news/2020/news1120.html)
☆えひめ地域政策研究センターからも『ヤギによる除草の現状と課題』という文献が出ております。この文献は、ヤギの管理、年間飼育スケジュール、ヤギ除草の実例など、ヤギ除草に必要な情報がまとまっているため大変参考になると思います。
今井 明夫・中西 良孝(2015)ヤギによる除草と現状の課題』No.1 調査研究情報誌ECPR
まとめ
いかがでしたでしょうか。ヤギ除草について具体的なイメージが持てましたか?農学部生の中には(筆者の学年にもいましたが)、「動物関係の研究室に行きたいけれど、畜産以外知らない、就職先がないのでは…」との不安から諦めてしまう人いるようです。
研究の具体的な事例や、地域との連携事例や研究活動の社会的意義を知ることで、自分もやってみようと思えるものです。
- ヤギは小柄で小回りが利き、他の草食家畜と比べて選り好みせず草を食べることから、除草に向いている
- ヤギでの除草は、急傾斜地でも行うことができる特徴がある
- ヤギでの除草スピードは約10平方メートル/日
- ヤギは15000円/月程度でレンタルできる
- 電気柵や小屋、管理人なども必要
- 臭いや鳴き声はあまり気にならないという声多数
- ヤギ除草について研究している自治体・大学・企業もある
今回の記事が、ヤギ除草を取り入れよとしていご家族やる団体の参考に、また、受験生への大学選びや、大学1,2年生への研究室選択の一助になれば幸いです。
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