農学部はどんなところ?大学で取れる資格や就職先は?

大学・大学院

大学の学部選びでお迷いですか?また、大学受験を控えたお子様から「農学部を受けたい」と言われて戸惑っておられますか?

農学部という学部名を口にすると、「…農学部って、毎日畑に出て授業をするの?」「一般企業に就職できるの?」「家が農家の人が行く学部  !?」など、様々なイメージを持って質問してくる人も少なくありません。

この記事では、学部・修士・博士と計9年間どっぷりと「農学」漬けの日々を送ってきた筆者が、農学部で学べる内容や取得できる資格、就職先などについてを解説します。

農学部の面白さや、学べる範囲の広さ・深さは語りつくせませんが、今回は、受験生が気になる「農学部で学べること」や「農学部で取れる資格や就職先」などを中心に、農学部で学べる内容をお話ししていきます。

どんなことが学べるの?就職に役立つ?

「農学」では扱う範囲が非常に広く、一言で「○○ができるようになる学部です」とは言い難い学問です。農学の中には、理数系寄りの学問から、文系・社会科系の領域まで幅広い学問分野があるからです。

4年生では卒論を書く研究室に配属されますが、研究の雰囲気も、ラボ生活がメイン(品種改良等の目的で遺伝子や受精卵を扱う)の研究室と、フィールドワークメイン(海や山に動植物の調査に行くなど)の研究室があります。

…イメージしやすくするために、農学部で学べる内容のほんの一部を以下に挙げてみますした。

なお、農学部に入学すれば、この全てを習得できるというわけではありませんし、大学によっては扱っていない分野もあります。農学部を受験する場合は、これを機に、自分の受験したい大学で扱っている研究テーマなどをチェックしておきましょう。

生物系

理学部の生物学科(生命科学系)と近い分野です。理学部では、生物を純粋に研究対象と捉え、生理・生体現象を解明することが研究目的であるのに対して、農学部では、生物を「資源」として捉え、ある生物の挙動が他の生物や生態系へ与える影響、ひいては人類への影響を考察する側面が強いといえます。

扱う生物は、土壌微生物などのミクロの分野から、サバンナの動物の生態系などマクロな分野まで様々です。この分野は、植物系、動物系、水産系などに分かれ、授業の実習で山や海に行くこともあります。野生の動植物の生理・生態の他に、家畜・作物等についても学べます。

工学系

農学部には、物理・工学系の分野があります。ここでは、材料学や測量学、砂防技術等を学ぶことができます。砂防とは、地滑りや土砂崩れ等の災害について、その仕組みを知り、防止するための学問です。

農学部で学べる材料学は、植物や木材を資源として活用するイメージです。バイオマス燃料や製紙技術を学ぶ学科も含まれます。

他にも、大型農業機械の改良(お年寄りに優しい設計など)や、衛星を使って上空から耕作放棄地を見つけてマッピングするなど、機材やコンピュータを駆使して農業や資源確保に貢献するための技術が学べます。

化学系

主に有機化学系の分野です。農産物や食料品の生産・加工・保存に関する技術や、農薬の開発などがこの分野に含まれます。理学部の化学科が「基礎研究(理論の構築・現象の解明)」であるのに対し、農学部の化学コースは「応用研究(使うための学問)」であるといえます。

他には、植物から薬用成分を取り出したり、植物に環境浄化をさせるといった研究もあります。植物から、とある成分のみを純粋に抽出する方法を考え出したり、その生成機構を解明して人工的に作る方法を考え出したりといった研究なども行なっています。

大学によっては、上記の分野を生物系に分類していたり、工学系に分類している場合もあります。テーマは類似していても、研究へのアプローチ方法などによって、カテゴリを変えたり、「横断領域」として扱っていたりするのです。

社会学系

農業経済、国際農業などの学科が含まれます。国内の農林業に関する経営・経済活動の他、TPPなどの国際協定が日本に及ぼす影響、貿易、法律、政策、国際関係・パートナーシップなどについて学びます。

他にも、農村社会学といって、古い時代の農業を中心とした日本の暮らしの解明、地域のお祭りや文化、地域特有の言語の由来など、日本人を日本人たらしめるアイデンティティを学べるユニークな学問もあります。

農学部にはどんな人におすすめ?

動植物が好きであったり、環境問題全般に関心がある人は、農学部がおすすめです。学問領域も広いので、興味ある科目や研究分野に出会える可能性が高いと思います。

また、机上の勉強よりアウトドアが好きというアクティブな人にもおすすめです。農学部では、フィールドワークメインの研究室も選べます。国内の山や海の他、研究室によっては海外の熱帯雨林や北極・南極にだって行くこともあるのです!

この他、進路を決める時期になって「ぼんやり理系」と思っている人にもおすすめします。先に述べた通り、農学部にはバリバリ理系のコースから、数学の知識はほぼ使わない理系、地理歴史メインのコースまで様々あるので、大学の教養課程を過ごしながら興味のある分野をゆっくり決められます。

農学部を選ぶ人への注意

前章で、農学部で学べる学問について触れましたが、大学によっては設置がないコースもあります。また、農学部には畜産を専門とするコースがありますが、獣医師の免許は取得できないので注意しましょう(農学部を退学して獣医学部に移る学生もいます)。

また、「農学部」と一口にいっても、入学時点で学科やコースを決めて受験するタイプの大学と、大学2年生までは教養課程を過ごし、3年生以降で専門コースを決めていくタイプの大学があります。専門的に学びたい事柄がはっきりしている人が後者のタイプの大学を選ぶと、後々使わない科目の単位の取得にも強制的に時間を割くことになってしまいます。

農学部を受験する「裏」のおすすめ事情

農学部は理系の分野ですが、受験時に選択できる科目の範囲が広い(場合が多い)です。理由は、これまで何度も述べているように、入学してからの学問領域の幅が広く、大抵の学生は、入試で選択した得意科目に関連する専門コースに進むからです。

自分の得意科目のみで受験できるメリットは大きいです。例えば、理学部であれば数学は必須科目であるところ、農学部は数学の代わりに理科2科目で代用できる場合があります(大学による)。国語や地理歴史まで選択科目に入っている場合すらあります。

筆者は、理系志望であったくせに数学が壊滅的にできませんでした(センターで7割くらい)。ですが、数学の受験はセンター試験の1回だけで、あとは私立も含めて農学部しか受けていないので、国語や理科の複数科目選択受験で逃げ切りました。

ですから、例えば、理学部の生物学科に行きたいけれど、数学が足を引っ張る場合などは、農学部入学して、類似の学問が学べる専門コースを希望するという手がありますよ。

農学部のデメリット

農学部のメリットである「学問領域が広い」という特徴は、逆にデメリットにもなります。幅広く興味を持つことは良いことですが、「あれもこれも」と授業を取っていると、浅く広い知識が身に付くのみで、専門性が低いまま卒業することになってしまう場合もあります。

他の学科では、学ぶべき内容が体系的にプログラムされている場合もありますが、農学部(特に、3年次以降で専門コースを決める場合)では、自分で授業を選択して、専門コースに入るための基礎を身につけていくので、自分の知識量や専門性の深さは自己責任によるところも大きいといえます。

また、就職活動の際、農学部生は、生物・化学方面では理学部や薬学部の学生に専門知識で劣り、物理方面では理学部や工学部の学生に劣り、苦労する傾向があります。

理学部で化学や物理に特化して4年間勉強してきた学生に対し、農学部3年次でようやく専門コースに入った学生では、専門領域の知識が浅く歯が立たない場合もあります。

農学部生はこのあたりをしっかり考えて4年間を過ごしましょう(専門コースを決めたら、理学部の類似授業に潜りにいくのがおすすめです)。

農学部を卒業しても農家になれるわけではない

大学の農学部で4年間勉強しても、残念ながら農家にはなれません。畑を耕し、作物を育て、農産物の販売経路を開くなど、実際に農業を経営していく訓練はしてくれないと考えてください。農学部でも、畑に出る実習を受講することができますが、「体験農業」程度というのが実情です。

農業で生計を立てるならば、大学の農学部より、専門学校(農業大学校など)をおすすめします。卒業後に畑を貸してくれるところを紹介してくれたり、提携農家で研修(数年働く)する制度があったり、就農支援が充実しているところを選びましょう。

農学部で取れる資格・免許

大学の農学部で取れる資格は、その大学がもつ専門領域やコースにもよりますので、公式ホームページで確認することをおすすめします。ここでは、農学部で取得できる資格の一部をご紹介します。

なお、大学または専攻するコースによって、取得できる資格は限られますので、ご注意ください。また、所定の単位を取得することで卒業と同時に得られる資格と、その学科を卒業することで「受験資格」が得られる資格がある点にもご注意ください。

  • 教員免許状
  • 学芸員
  • 測量士
  • 樹木医
  • 家畜人工授精師
  • 家畜受精卵移植師
  • 環境再生医
  • ビオトープ管理士
  • 化学分析技能士
  • 甲種危険物取扱者
  • 毒劇物取扱責任者
    などなど

筆者は、中・高理科の教員免許(理科)を取得しましたが、専門科目の他に教員養成の科目(児童心理学など)の単位が必要であるため、授業の空き時間に他学部の講義を受けにいく必要があり大変でした。

農学部で取れる資格や、農学部で学んだ知識を基に取得できる資格は意外とたくさんあります。環境系や農業系、食品衛生系など自分の就職したい業種を考えて戦略的に資格を取りに行きましょう!授業を聞く姿勢も変わりますよ。

農学部生の就職先

農学部では、資格の習得の他に様々な技能が身につきます。どのような技能が身につくかは、所属する研究室によって異なりますので、その後の進路を考えて研究室を選びましょう。

例えば、生命科学系(生物系)のコースを選択すると、バイオ・遺伝子工学系の知識や技術が身につきます。遺伝子組み換えやPCR(遺伝子の任意の領域を増幅させる技術)、マイクロピペット等の実験器具を日常的に使用するので、就職時に自信を持って技能欄にアピールすることができます。

化学系では、各種分析機器の原理や使用についての知識が身につきます。毎日使うので、操作方法は体に染み付きます。分析条件の開発や、機器メンテナンスまでできるようになと、化学系メーカーへの就職で有利になります。

生物系

農学部生物系の学生は、絶滅危惧種の保護などを行う公務員や、バイオ系企業の研究者、発酵(ワイン、チーズ、しょうゆなど)や香料の知識を活かせる商品メーカーでの研究・開発者として就職することが多いです。就職先の裾野は広いけれど競争率の高い分野といえます。

工学系

農学部工学系の学生は、国家もしくは地方公務員の土木系の課や、農業機器メーカーに就職することが多いです。その他、製紙会社やゴム会社(ゴムは今でも樹木から採れる天然ゴムを多く使っています)など、自然資源を原料とする工業製品のメーカーに就職する人もいます。

化学系

農学部化学系の学生は、化学メーカーや企業の研究・開発に携わるかたちで就職することが多いです。化学系メーカーといっても多種多少ですが、食品寄りの部門や農薬、害虫避けなど、自分の学んできた内容に近いメーカーを見つけましょう。

社会学系

農学部社会学系の学生は、公務員として就職することが多いです。農業関連の政策等についてを専門に学び、国家一種試験を突破して国家公務員(農林水産省、環境省)として就職したり、県庁、市役所、農協などに就職していました。

農学部がある大学は?

農学部がある大学で、有名どころといえば「東京大学農学部」です。「早慶上智」とくくられる私立大学(早稲田大学、慶応大学、上智大学)には農学部はなく、MARCHクラスには明治大学に農学部があります。

また、「生物資源学部」、「生命環境学部」、「水産学部」、「園芸学部」なども農学系の学科として分類されます。

これら農学系学部まで含めると、国立では東大の他に北海道大学、帯広畜産大学、東北大学、筑波大学、茨城大学、信州大学、九州大学、神戸大学などがあり、私立では東京農業大学や日本大学、玉川大学などが有名です。

wikipediaの「農学部」に一覧が出ておりましたので、興味のある方はご確認ください。

wikipedia 農学部

まとめ

ここまで、農学部で学べることや、資格・就職先などについてお話ししてきました。受験生のみなさんは、是非参考にしてみてくださいね。

  • 農学部は学べる範囲がとても広い
  • 受験の時に選択できる科目も幅も広い
  • 受験の段階でやりたいことがない人にもおすすめ
  • 卒業時に広く浅い知識にならないように注意
  • 農学部では取得できる資格もたくさんあるので要チェック!
  • 農学部の系列には、「生物資源」や「園芸」など大学によってネーミングに特色がある

おわりに

何年か前に、漫画『もやしもん(石川雅之著)』で農学部が取り上げられ、アニメ化もされましたね。その後も『銀の匙(荒川弘著)』などで農業高校が舞台になるなど、農学系の学園生活が話題になりました。

農学部で9年間過ごした筆者からすると、積極的に農学部を活用し、満喫すれば、漫画のような波乱万丈の学校生活を送ることができます。農家の手伝いに行ったり、家畜をシメて食べたり(学校内)、実習で海や山に泊まり込みで行ったり、野焼きを手伝ったり、本当に美味しい農産物に出会ったり、地域復興に関わったり…。筆者もかなり色々な体験をさせていただきました。

アンテナを立てておくと様々なイベントに参加できる一方、「農学とかダサーい。本当は理学部に行きたかった〜。実習だるーい。」と言いながら毎日を過ごす学生もおります。また、専門を持つか、浅くとも広い知識を有効に使うかも人それぞれです。入学するからには、大学を120%活用するつもりで、一生モノの体験をしにいってください!

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